医師のための節税対策
医師はどれくらい節税ができるのか
開業医になり収入は確実に増えているはずなのに、思ったより生活レベルが上がらないと感じていらっしゃる先生は多いのではないでしょうか。
何も節税対策をしないまま確定申告をすると、年収2,000万円の場合で、700万円以上税金を支払うことになります。
課税所得は、「収入金額(売上から経費を差し引いた金額)」から「収入から差し引かれる金額」を引くことで計算されます。
「収入から差し引かれる金額」には所得控除の対象となるものが含まれます。ここでは、所得控除でどのくらい税金が控除されるのか確認してみましょう。意外に見逃している控除項目もあるかもしれません。
配偶者控除/扶養控除
配偶者や扶養家族がいる場合、一律38万円が控除されます。例えば、奥さまとお子様2人の場合は配偶者控除が38万円と扶養控除が38×2人で、合計114万円です。
同一生計家庭に適用される控除であり、判断基準は「金銭面を負担しなければ生活ができない人」が親族にいるかどうか。
別居していてもほとんどの生活費を負担していれば同一生計家庭であり、同居をしていても金銭的援助を一切行っていなければ同一生計家庭と認められません。
基準がすべてであり、別居や同居は関係ないと覚えておきましょう。
また、親子以外にも両親や親類に金銭的援助を行っているという人には控除が適用されますので、心当たりがあれば申告を行うべきです。
予想以上に節税ができる可能性がありますよ。
基礎控除
基礎控除は一律38万円まで控除の対象となります。
医療費控除
一年間に医療費として支払った金額の3割が10万円を超えると、その超過分が控除されます。最大200万円までです。
対象となる医療費は保険医療の他、医薬品の購入費、出産にかかった費用、通院に使ったタクシー代なども含まれます。また、配偶者や子どもなど、同居している家族の分も対象です。
一概に医療費負担額10万円以上の方が対象という訳でもなく、総所得金額が200万円未満の場合は金額の5%が最低金額になります。よって、10万円以下でも控除対象になりうるのです。
まずは税率と年間医療費を正しく数値化してから控除申請することが大切。また、高額納税者はたいへん得ができる控除制度。高収入であり医療費が10万円以上発生する人はすぐに申請するべきでしょう。
税率が5割を超える人だと、医療費控除を活用すれば5割の節税が見込めます。控除申告を失念しない点が注意点といえるでしょう。
社会保険料控除
国民年金や社会保険料として支払った額が控除されます。国民年金の場合は年間197,880円。国民健康保険は自治体によって金額が異なりますが、最大89万円程度です。
控除対象となるのは、本人や家族が実際に支払った社会保険料全額。ほとんどの場合、給与から社会保険料は引かれているので、控除の手続きは会社が行う形です。
家族分の控除申請も会社で行うので、期日までに支払った保険料の金額を明記した書類を提出します。
その際の注意点としては、保険料を年金から天引きしている場合、年金受給者の本人が支払っているとみなされるので、控除の対象にならないこと。対象に含めるには、支払い方法変更手続きを行う必要があります。
地震保険料控除
地震保険に加入している場合は、最大5万円まで控除されます。
対象となる地震保険の種類は、地震が発生し損失を受けた時に居住用家屋と生活用不動産を対象にした補償している保険契約です。
また、平成19年から損害保険料控除が廃止され、それに伴う救済処置として「平成18年12月31日までに締結した契約」「満期返還金等が適用され10年以上の保険期間や共済期間が保障されている契約」「平成19年以降に現在の損害保険内容を変更していない契約」のいずれかに当てはまる保険契約をしている方も、地震保険控除の対象となっています。
寄附金控除
ふるさと納税やチャリティー団体への寄付などで支払った額が控除されます。ふるさと納税は、返礼品がもらえることから、節税対策として注目されています。
ふるさと納税を行った場合、金額に応じて所得控除か税額控除が受けられる点が特徴です。どちらかを選んで申告ができるので、計算をしたうえで控除額を比較し、節税に適した方の控除を選びましょう。
計算上では税額控除の方が控除額が高くなるので、税額を選んだ方が得だと思うかもしれません。
しかし、高額所得者が高額のふるさと納税をした場合は、所得控除がお得になることも。住民税の控除額は住んでいる地域によって差があります。事前に確認をして、節税につながるようにしましょう。
住宅ローン控除
住宅ローン減税制度により、住宅ローンを利用して住宅を購入した場合、年末の住宅ローンの残高か住宅購入額のどちらか少ないほうの金額から1%が10年間控除されます。
このように所得控除には、さまざまな項目があります。申告し忘れている所得控除はないか、確認してみてはいかがでしょうか。
控除対象となる住宅ローンは、銀行から提供されているプラン全般です。
金融機関経由の住宅ローンではなく、住宅支払いのために借りたお金は当然ですが控除を受けられません。また、住宅ローン控除は夫婦共働きの場合、夫婦それぞれに控除が適用されます。
その方法は、夫婦がそれぞれ連帯責務で住宅ローンを借りるか、それぞれが住宅ローンを組むかの2つであり、条件を満たしていればどの夫婦も2人分の控除が受けられるのです。より節税ができてお得でしょう。
※上記の情報は、国税庁ホームページを参考にして解説しております。
目的は「節税」?それとも「資産運用」?
所得控除による節税対策をしっかり行った上で、他の節税方法も模索していく必要があるでしょう。
特に年収の高い医師の場合、所得控除による節税だけでは限界があります。今後、収入が増えていけば、どうしても課税所得が多くなってしまうのが現状です。
開業医に最適な資産運用とは!?
納税額を抑え、将来に向けた資産形成を実現するのは、単なる節税ではなく資産運用です。開業医の資産運用には、他の職業にはない独自の方法があります。
一つは病院の医療法人化です。法人化することで、病院の資金を分散することができるので、かなりの節税効果が期待できます。
また、不動産投資により、節税と資産形成を同時に行うことも可能です。医師という特権を活かせば、銀行からの融資や、福祉施設への投資も難しくありません。不動産投資をすることで、社会貢献することもできます。
コンサルに相談するメリットとデメリットは?
多忙を極める病院経営の仕事をこなしていく中で、効率的な資産運用を行うにはコンサルへの相談が不可欠です。メリットとデメリットを見極めた上で、上手に活用していきましょう。
コンサルのメリット
コンサルのメリットは、法律や会計、財務や生産性向上などに関する深い知識を有効的に活用できるということです。
ある分野に特化しているコンサルを上手く活用できれば、深い知見の引き出しを増やしていけます。コンサルのノウハウが社員に移植されれば、人材力の強化にも繋がっていくでしょう。
また、自分たちが気付けなかった「当たり前」に気付けるのも利点。中立的な立場で意見がもらえます。常識にとらわれることなく、柔軟な対応を身につけられるでしょう。
実際に法人化や不動産投資を行ううえで生じる、煩雑な事務手続きを一任することも可能。さらに資産運用のリスクをできるだけ回避するためにも、コンサルは資産運用を行ううえで欠かせない存在だといえます。
コンサルのデメリット
一方、コンサルには高額な高額な手数料がかかります。なかには質の低いコンサルも。依頼する以前に、まずどこのコンサルにお願いすればいいのか?何を相談すればいいのか分からない、という方も多くいらっしゃるでしょう。
各コンサルで得意な分野が異なるので、相談する内容に適したコンサルを選ぶ必要があります。
目的を明確にしたあと、その内容に詳しいコンサルをリストアップ。開業医ならではの資産運用を行うため医業に特化したコンサルが必要な場合は、一人ひとりに話を聞いてみることが大切です。
病院を経営しながら資産形成の計画を立てるには、どうしても時間が限られてきます。限られた時間を有効に活用するためにも、コンサルの総合的な知識と実績が最も重要だといえるでしょう。
コンサルに相談するときの注意点
- 得意とする分野を見極める
- 数字や名前の実績に惑わされない
オールマイティなコンサルタントも存在しているかもしれませんが、「何でもできる」と看板を掲げているところよりも、得意分野がはっきりしている人のほうが信頼できる傾向にあります。
専門領域としては、営業・マーケティング・広報・財務・戦略・開発・経営などがあり、多くのコンサルは複数を組み合わせて行います。
例えば「患者さんが少なくて経営が苦しい」という開業医の場合、周囲に同じようなクリニックが何軒あるのかから始まり、住民の年齢層や学校・施設との提携などを深くリサーチするなど、どんなサービスが求められているかを考えなければなりません。
営業技術だけが得意なコンサルに任せても、患者さんは増えないのです。
成功したコンサル実績数や相手先の名前を公表している人は、少し距離を置いて確かめましょう。「病院経営のコンサルを受けている」という事実を公にする医師は多くありません。
患者さんに不安を与えるようなことは言わないので、コンサルタントの一存で公表している可能性もあります。
仮にイニシャルで掲載しているとしても、ある程度の憶測はできます。コンサルタントと医師の間で同意が確認できている状態の公表でも、実績として積み上げたコンサル内容が素晴らしいものであるか否かは、外から調べようもないないのです。
集客のためだけに掲載している疑いを持って、慎重に検討してください。
医師だからできる節税「一般職との違い」
収入が多いほど、有利になる節税方法があります。ここでは、不動産投資、会社設立、特定支出控除、ふるさと納税による節税がどれほどの効果があるのか検証していきます。
特に、不動産投資や会社設立は、医師だからこそ効果が期待できる節税方法です。また、単に節税するだけでなく、将来に向けた資産形成も実現できます。
どのくらい節税できるか?
年収2,000万円の医師、400万円の一般職、1,000万円のエグゼクティブ職の方がそれぞれ節税や投資をした場合、どれほどの差が出るものなのでしょうか。実際に、比較しながら見ていきましょう。
節税項目 | 医師(2,000万円) | 一般職(400万円) | エグゼクティブ職(1,000万円) |
---|---|---|---|
不動産※ | 2億円不動産投資で、年1,400万円の収益見込 | 4,000万円の不動産投資で、年280万円の収益見込 | 1億円の不動産投資で、年700万円の収益見込 |
会社設立 | 法人税等約40% 所得の分散が可能 | 所得税率20%のため法人化のメリットなし | 所得税率33%のため法人化のメリットなし |
特定支出控除(給与所得者) | 業務に必要な出費が122万5,000円以上あると、超えた分の控除が可能 | 業務に必要な出費が67万円以上あると、超えた分の控除が可能 | 業務に必要な出費が110万円以上あると、超えた分の控除が可能 |
ふるさと納税 | 最大514,000円まで寄付金控除可能 | 最大41,000円まで寄付金控除可能 | 最大172,000円まで寄付金控除可能 |
※通常、銀行が不動産投資のために融資してくれる額は、年収のおよそ10倍と言われています。
開業医と勤務医では、節税できるポイントに違いがあります。特定支出控除は給与所得者が、所得控除額の2分の1を超える額が経費として認められた場合に、適用される控除制度です。
一方、開業医の場合は、法人化することでこれ以上収入が増えても、納税額を40%以下に抑えることができます。
また、所得を分散することで、税率をさらに低くすることも可能です。このように、開業医は勤務医に比べ、さまざまな節税方法が選べます。
高額所得者である医師にとって、節税対策をするメリットは大きいものです。一方で、不動産投資や法人化には煩雑な手続きや運用、リスクが伴います。
それを解決するのがコンサルタントの仕事です。うまく活用すれば、煩わしい事務作業を削減できる上、節税と資産形成を同時に行える強い味方となるでしょう。
リタイヤ後を想像してみてください
収入額に応じて増える出費
教育資金や老後の生活費など、お金に関する悩みはつきません。高収入の医師でも、それは同じことではないでしょうか。例えば、年収2,000万円の開業医でも、節税対策をしなければ、手取り額は1,300万円程度です。
月々の出費で特に大きいのが教育費。子ども2人がそれぞれ、私立に通うとなると月に20万円の出費になります。さらに、住宅ローンや大学進学のための貯蓄など、収入額に応じて出費も多くなる傾向があります。
理想的な老後とは?
退職後の資金は、多ければ多いほうが良いというのは事実です。老後の生活費や医療費だけでなく、娯楽に使うお金も必要でしょう。
また、医師としての資格や経験を活かして、海外でのボランティア活動をお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
最低限の生活費だけでなく、充実した老後を過ごすためには、現役時代からの資産形成が大切です。法人化や不動産投資など、計画的な資産運用を考えましょう。
理想的な老後を実現するために…
医師が実行できる資産運用方法は、時期によって変わってきます。
開業したばかりの時期、病院経営が軌道に乗り始めた時期、医療法人化によりさらに病院が発展する時期、リタイヤに向けて業務を縮小する時期など、それぞれの時期に合わせた運用が必要です。
そのためには、生涯に渡って、さまざまな面でサポートしてもらえるコンサル会社の存在が重要となってくるでしょう。信頼できるコンサルに依頼することで、理想的な老後を実現できるかもしれません。
不動産投資による節税
不動産投資は、マンションの一室、もしくは1棟まるごとを買い取って、それを貸し出すことで家賃収入を得る、という投資です。
不動産投資による節税は、物件に関係する諸々の費用(減価償却費・固定資産税・ローンの金利・修繕費・管理費・火災保険料等)を経費として計上することで、課税所得の削減を図るというもの。
とくに物件購入の初年度は、登録免許税や不動産取得税など、額の大きい項目を含めることができるため、節税効果も高くなります。
もちろん、本来は資産形成のために行うものですので、節税だけを目的に行うのはあまり現実的ではありません。
しかし大抵の場合、節税の目的は将来的な資産を増やすことです。そのための手段と考えれば、不動産投資と節税をまとめて行うというのも、理に適っていると言えるでしょう。
不動産投資による節税のメリット
不動産投資のメリットは、資産形成をしながら、同時に節税も図れるというもの。入居率が高ければ月々の家賃収入も高くなります。また、本業に時間を費やしていても、自然と収益が発生するのはとても魅力的でしょう。
不動産投資による節税も資産形成にかかわることで、不動産運用に発生する費用は経費として控除が受けられます。
特に物件を購入した初年度は、登録免許や不動産取得税など、額の大きい項目を控除に含めることができるため節税効果は倍増。
不動産投資は家賃収入のみならず、節税も大切な要素なので忘れずに行っていきましょう。
不動産投資による節税のデメリット
上手に不動産を運用しないと、損失を発生させるリスクが常にあるのが不動産投資です。入居者が増えないと家賃収入も安定せず、住居のメンテナンス費用などの経費の方が高くなることも。
加えて不動産投資には専門的知識と経験が求められます。不十分であると運用に影響が生じ、損失が膨れ上がることは珍しくありません。また、不動産投資は事業と同じなので、利益が発生すれば税金も発生します。
必要経費は控除で戻ってきても、全く割りが合わない事態も十分に発生しうるのです。不動産運用を円滑にこなしていかないと、資産を増やすのは不可能。そのためリスクを回避するサポートが必須となります。
不動産投資による節税の注意点
- 建物売買には消費税が課税される
- 売却すれば譲渡税が課税される
- 契約時に印紙税が課税される
- 利益があれば所得税が課税される
- 場所によっては都市計画税が課税される
土地は非課税ですが、建物の売買には税金が発生します。また、不動産投資によって黒字になれば、年収に応じて5~40%の所得税が課税されてしまうのです。
節税目的であれば利益を追求することはできませんが、不動産収入で年収195万円以下であったとしても5%課税されます。税率に比例した控除額もありますが、家賃収入が増えれば増えるほど税率の負担は大きくなるでしょう。
例えば毎月の家賃収入が100万円あったとすれば、それだけで1200万円。そうなれば20%の所得税となり、240万円を収めなければならなくなります。
これは居住目的の場合であり、事務所や貸ビルになると8%の消費税が課税されてしまいます。その場合は消費税96万円となり、合わせて336万円。
ただ、前々年度の家賃収入が1,000万円以下であれば消費税は課税されない上に、必要経費は収入から差し引いて計算するので、実際の税額をもっと下げることは可能です。
都市計画税の税率は、固定資産税評価額×0.3%になっています。東京都の場合は23区内で0.3%を採用しているのに対し、多摩市などでは0.2%です。評価額が低ければ、土地30万円と建物20万円の免税額が適用されます。
税制改正の見直しによって課税額も変わり、市街化調整区域では課税されません。不動産投資による節税は、収入と税金のバランスが大切だと言えます。
会社設立による節税
勤務医の場合は、会社を設立することで、さまざまな出費をその会社の経費とすることができます。
また、勤務先の病院からもらっている給料の一部を、その会社への報酬として振り込んでもらうことで、見かけ上の所得を抑えることも可能。
このほかにも、会社の所得を家族に支払うようにすることで、税の負担を軽くすることも可能です。
給与の支払いを受けた人が控除制度を利用することで、さらに節税対策もできます。手間や時間は必要ですが、上手に行えば、相当額の節税が見込めることでしょう。
ちなみに、勤務医の人が開業するジャンルとしては、医療コンサルティングや資産管理会社などが多いとされています。
会社設立による節税のメリット
会社設立による節税のメリットは、節税できる金額が大きい点に尽きます。また、生命保険を会社の経費にできるため、方法によっては変則的な退職金も受け取れるのです。
そして、現役医師であることを活かした起業が可能な点もポイント。医療コンサルティング業務や医療関連用品の販売など、需要があるサービスを提供できるので、うまくいけばまとまった収益を上げることが可能です。
会社設立を行えば節税をしつつ、自分のスキルを活用しながら資産形成ができます。
会社設立による節税のデメリット
会社運営は1人でどうにかできるほど簡単ではなく、病院や家族など、周囲の協力が必要不可欠となります。
たとえば医師としての経費を会社の物として扱ったり、給与の一部を会社に支払ってもらったりするには、勤務先の病院に認めてもらわなければなりません。
また、家族に協力してもらうには理解を得る必要があり、事業内容説明や事前の相談は必須。協力を得られなければ、会社を設立し節税を図るのは不可能に近いでしょう。
会社運営には諸々の手間や出費も覚悟する必要があります。煩雑な手続きや幅広い知識も必要なので、1人で行うには限界があるのです。
会社設立による節税の注意点
- 身内を役員にすると所得税が課税される
- 設立に登記費用が発生する
- 赤字でも法人住民税が発生する
- 申告が複雑になる
- 自由にお金を使えない
注意が必要なのは法人住民税です。個人事業であれば、赤字なら税金は課税されません。しかし法人住民税は地方税なので、赤字でも黒字でも徴収されてしまうのです。
自治体によって税率は変わってきますが、法人税割+均等割=法人住民税で計算されます。例えば横浜市であれば、これらの一般的な法人住民税に「横浜みどり税」と呼ばれる税金が上乗せされます。
それぞれ地域によって違うため、設立場所の地方税を確認しておきましょう。
また、法人化すると法人税・法人住民税・法人事業税・消費税・地方法人特別税など、申告しなければならない税金の種類が増えます。
そのため個人事業の比ではないくらい手続きが難しくなるため、税理士に依頼しなければ手に負えません。
国税と地方税では収める時期も違い、遅れたり脱税した場合は追徴課税されます。
これまで個人事業主として自由に使うことができたお金が、会社の資金になれば勝手に使うことができなくなります。
それは代表取締役に就いていたとしても変わることはなく、役員報酬として受け取る場合でも金額に制限を設けられ、私的にどうにかできるものではなくなります。
その点は厳しく取り扱われる部分もありますが、どんな会社組織にするかで待遇や税金対策も変わってくるでしょう。
特定支出控除による節税
特定支出控除とは、「通勤費用」「転勤のための引越し費用」「単身赴任の際の帰宅時の交通費用」「研修費用」「資格取得費用」「業務関連の書籍購入費用」「業務関連の衣類購入費用」「業務関連の交際費用」といった8つの費用項目(特定支出)について、課税額の控除を申請できる制度です。
確定申告や、出費を証明するための各種書類の保存などが必要ですが、場合によってはそれなりの額の節税が見込めます。
特定支出控除による節税のメリット
特定支出控除のメリットは、たとえ開業医であっても、業務に関わる出費を経費として計上できる点でしょう。収入に応じた金額が特定支出控除となり、これは医師や一般会社員でも変わりはありません。
例えば医師の場合、1冊何万円もする医学書を購入し治療に役立てます。そして自主的に学会に出席する必要もあるので、数十万円の費用を自腹で支払うことも。
相当な額を負担しますが、特定支出控除を申請すれば条件に応じてお金が戻ってきます。上記は勤務必要経費とみなされ、合算経費の合計額が適用判定金額を超えていれば特定支出控除が適用されるのです。
特定支出控除による節税のデメリット
特定支出控除のデメリットは、利用条件が厳しく、勤務先から証明書類を手に入れる手間がかかる点。適用できる費用項目自体は通勤だったり業務関連の交際費用だったりと、一見するとすぐに申請が通りそうな気もするでしょう。
しかし、実際には控除を認めてもらうために、あらゆる書類を揃えて提出します。支払い者の証明書や特定支出の事実、金額を証明する書類など、用意するには時間と手間がかかるものばかりです。
忙しく時間に追われている勤務医だと、控除を受けて節税をするということに意義が見いだせなくなる人も多いため、せっかくの控除制度ですが利用を選択しない人は少なくありません。
特定支出控除による節税の注意点
- 勤務医でも確定申告をしなければならない(証明書・領収書・源泉徴収票が必要)
- グリーン料金やビジネスクラスは適用外
- 思ったほどには還付されない
特定支出控除は年末調整には含まれないため、適用してもらいたい場合は自分で確定申告を受けなければなりません。そのためには書類を揃えなければなりませんが、1年に1回の手続きに領収書を保管しておく必要があります。
領収書がなければ証明できないため、還付してもらうことが不可能になるケースもあるでしょう。
以前と比べて適用範囲は広がりましたが、グリーン料金やビジネスクラスなどのグレードアップ料金は含まれません。あくまでも業務に必要な経費としての控除なので、豪華さや高級感を求めるシート代には適用されないのです。
年収に関係なく特定支出控除を受けることはできますが、還付される対象の金額は、給与所得控除金額×1/2と定められています。
つまり年収800万であれば、控除額は200万円。この1/2なので、100万円以上が必要です。
そう考えると、出張で110万円の交通費があって、初めて10万円が還付される計算になります。東京~大阪の航空券が片道2万円だったとして、往復で4万円。単純に25回出張しなければ控除を受けられません。
このケースの場合では、100万円を超えなければ還付されないことになります。
「医師なのに特定支出控除を申請するのは……」という方もいらっしゃいますが、すべての人に与えられている権利なので、年収と経費を計算して還付額に納得できるなら行使したほうが得です。
ふるさと納税による節税
ふるさと納税は、任意の自治体に税金を前払いすることで、その金額に応じた返礼品を受け取れる制度です(厳密には寄付という名目となっています)。また、「前払いした分-2000円」が、翌年支払う税金から控除されます。
納税できる金額は、その人の所得額に応じて上限が決められており、所得が高い人ほど、多くの額を納めることができる仕組みとなっています。
返礼品は、各地域の特産物であったり、家電製品であったり、宿泊サービスであったり、多種多様。
ウェブ上には、地域ごとの返礼品をまとめたウェブサイトも無数に存在しており、ネットショッピングのような感覚で納税先を選ぶことができます。
ふるさと納税による節税のメリット
ふるさと納税の一番のメリットは、実質的に2000円の負担で、それ以上の価値がある返礼品を受け取れること。返礼品に多いのは、その地域の特産品や名産物です。
お肉や海鮮類といった生ものからケーキやプリンといったスイーツまで、目白押しのラインナップとなっています。
金額に応じて貰える返礼品は変わるので、所得が一定以上ある場合はふるさと納税を有効的に活用し、全国の素敵な品物を揃えることが可能です。また、寄付金の用途を指定できる地域があります。
自分の寄付金が無駄なく地域復興に役立てられるので、やりがいを感じられるでしょう。
ふるさと納税による節税のデメリット
デメリットが非常に少ないのもふるさと納税の魅力ですが、一般的には2000円の自己負担額のみでしょう。負担といっても返礼品として返ってくるので、金額に関しては大きく不満を感じる人は少ないと思われます。
しかし、考え方によっては、ふるさと納税自体、節税の役割を果たしていないと言えるのです。理由としては、税金は安くなるけれど実質寄付をしているのでプラスマイナスゼロと考えられることが挙げられます。
他にも控除上限額に制限がある点や寄付に手間が掛かるなど、探すとデメリットは少なからず出てくるもの。どう考えて捉えるのかは、その人次第になります。
ふるさと納税による節税の注意点
- 年収と家族構成によって限度額が違う
- 総務省ふるさと納税ポータルサイトより抜粋
- 転居したら手続きが必要
例えば年収1,000万円であっても、共働き・子供あり(高校生・大学生)・子供1人または2人など、家族構成で納税できる金額はまったく違います。
年収1,000万円の場合(一例)
共働き 176,000円
共働き+高校生1人 166,000円
夫婦+高校生1人 157,000円
夫婦+子供2人 153,000円
年収1,000万円で夫婦+子供2人の場合は、153,000円-2,000円=151,000円。
1000万円の所得税率は33%なので、151,000×33%=49,830円のふるさと納税控除を受けることができます。
これは最高限度額の納税をした場合なので、一般的な5~10万円程度のふるさと納税になると、控除額も3万~4万円に留まるでしょう。
ふるさと納税は地方自治体の税収を増やすことが目的なので、大きな恩恵を感じられるほどの節税は難しいかもしれません。
住民税も寄付金-2,000円は同じで、そこに10%をかけた基本額が控除となります。控除を受けるためには、確定申告をしなければなりません。
ただ、条件をクリアできていればワンストップ特例で確定申告しなくても控除を受けられますが、その場合は翌年の1月10日が申請の締め切りとなるため、年末年始の忙しい時期に用意をしなければなりません。
住民税は1月1日に住民票のある人に課税されるため、ふるさと納税をしたあとで転居したら、申告特例申請事項の変更届を自治体へ提出してださい。
専門家を頼るのがおすすめ
節税は、高収入であればあるほどやっておいて損のない資産形成ノウハウの1つと言えます。
しかし、どのような方法を選択するにせよ、節税にはそれなりの手間と時間が必要。多忙な医師が独力で行うとなると、負担が馬鹿になりません。
そこでおすすめなのが、諸々の実務を外部に委託してしまうことです。
税理士やコンサルティング会社等、節税対策を請け負っている機関はたくさんあります。節税できる金額と手間賃・勉強の時間などを照らし合わせたら、委託する費用も十分もとは取れるでしょう。
また、節税対策だけでなく、医師専門に特化して経営コンサルティングや資産形成などに対応している会社もあります。
将来的な法人化や事業承継、セカンドライフに向けた貯蓄等々、医師の悩みはつきません。
そういった諸々の事項についてすぐに相談できるパートナーを見つけておくと、今後の人生を考えるときにも、有用な情報をすぐに得られるはずです。